大衆酒場のワンセットで繰り広げられる人間模様。巨匠・内田吐夢が実験的なスタイルで描いた異色の野心作。 内田吐夢の帰国第二作。大衆酒場の開店から閉店までの一日に時間を限定して、そこに集う人間模様を《グランド・ホテル形式》で描いた異色作。重層的に描かれるエピソードは互いに衝突し、止揚しあい、世相の縮図を鋭く映し出す。と同時に、シューベルトやビゼーのクラシック音楽から軍歌、民謡、流行歌にいたるまで、あらゆる種類の音楽をふんだんに盛り込んだ音楽劇の趣もある。 酒場のセットに出入りする多くの登場人物を捌く吐夢の見事な演出は、さながら熟練したオーケストラの指揮者にたとえられよう。脚本は本作がデビュー作になる灘千造。酒場の中を縦横に動き回る撮影を担当したのは西垣六郎。重厚でリアルな酒場のセットを設計した美術監督は伊藤壽一。音楽は芥川也寸志。